コラム

企業はなぜ業界団体と「並行して」ロビイングするのか?EU大規模調査から見える戦略的合理性

企業が業界団体に加盟しながら、なぜ自社単独でもロビイングを行うのか。EUにおける35,000件超の面会データを分析した研究(Albareda et al., 2025)を基に、このパラレル・ロビイングという現象の発生要因を解説します。結論として、業界団体が政策当局と近い関係にあるほど、また団体の守備範囲が広いほど、企業は自社でも直接ロビイングを行う傾向があり、業界団体への加盟と直接的なPA活動は「代替」ではなく「補完」の関係にあることを示します。

長島 淳史 2026年2月3日
企業が加盟する業界団体が政策当局と面会している時期に、企業自身も同じ政策当局と個別に面会する構図を示した図。企業の面会の約18%がこれにあたり、団体が政策当局に近い、団体の守備範囲が広い、具体的な法令・規制が対象、欧州外に本社がある、という条件で起きやすくなる。団体経由と自社の面会は代替ではなく補完の関係にある。
本文で紹介した研究の定義と、起きやすくなる条件を図示。 図を拡大して見る(別タブ)

はじめに:「二重のロビイング」という現象

企業が政策形成に関与する際、多くの場合、業界団体を通じた集団的なロビイングと、企業単独での直接的なロビイングという二つの選択肢があります。教科書的には、企業は業界団体への加盟費を払っているのだから、政策対応は団体に任せればよいと考えるのが自然かもしれません。

しかし、実際には、多くの企業が業界団体のロビイング活動と並行して、自社単独でも政策当局と面会しています。

2025年7月に『Journal of European Public Policy』で公開された研究はこのパラレル・ロビイング(parallel lobbying)という現象を大規模なデータで体系的に分析し、その発生要因を明らかにしました(Albareda, A., Coen, D., & Saz-Carranza, A. (2025))。

本稿では、この研究の知見をパブリックアフェアーズ(PA)実務の観点から読み解きます。

パラレル・ロビイングとは何か:業界団体と企業が同時に政策当局と接触する現象

パラレル・ロビイングとは、企業が加盟する業界団体が政策当局と面会している時期に、その企業自身も同じ政策当局と個別に面会する現象を指します。

研究チームは、欧州委員会が2014年から2023年の間に公開した35,781件の面会記録と、EUの透明性登録簿(Transparency Register)のデータを組み合わせ、872社の企業とそれらが加盟する業界団体の活動を分析しました。

分析の結果、企業が行う面会のうち約18%がパラレル・ロビイングに該当することが判明しています。言い換えれば、企業の面会の5分の1弱は、加盟する業界団体も同時期に政策当局と接触している状況で行われているということです。

なぜ企業はパラレル・ロビイングを行うのか:4つの動機とエージェンシー理論

研究チームは、先行研究に基づき、パラレル・ロビイングには4つの動機があると整理しています。

第一に、モニタリングです。企業は業界団体が政策当局にどのようなメッセージを伝えているかを確認するため、自らも面会を行います。業界団体は「エージェント」として企業の代理で活動しますが、その活動内容を監視し、認識の齟齬を防ぐ必要があります。

第二に、メッセージの補強です。政治的に注目度の高いイシューでは、業界団体のメッセージを企業が直接支持することで、政策当局への圧力を強化します。ロビイングの世界では「量は力」という原則があり、同じ方向のメッセージが複数のアクターから届くことで影響力が増すと考えられています。

第三に、情報の追加・補足です。業界団体は多様な会員企業の利害を調整するため、しばしば「最大公約数」的な立場を取らざるを得ません。個別企業は、団体が伝えきれない技術的な詳細や自社固有の状況を、直接説明する必要があります。

第四に、異なるメッセージの発信です。業界団体内での調整で自社の主張が通らなかった場合、あるいは団体としての統一見解がまとまらない場合、企業は独自のポジションを政策当局に伝えるため、個別にロビイングを行います。

この4つの動機は、日本でPA実務に携わる立場からも実感に合うものです。業界団体の動きを見守りつつ、必要に応じて自社でも動くという判断は日常的に行われています。

何がパラレル・ロビイングを促すのか:企業特性と業界団体特性の分析

研究チームは、パラレル・ロビイングの発生要因を企業レベルと業界団体レベルの両面から検証しています。

企業側の要因:外資系企業ほどパラレル・ロビイングを行う傾向

論文によれば、企業のロビイング支出や活動する政策分野の広さは、パラレル・ロビイングと正の相関を示しました。ただし、この効果は業界団体の特性を考慮すると統計的に有意ではなくなったとされています。

一方、研究チームの予想に反して、欧州外に本社を置く企業のほうが、欧州企業よりもパラレル・ロビイングを行う傾向が強いことが判明しました。論文では、欧州外の企業が業界団体との結びつきが弱く、また加盟国政府を通じた間接的なチャネルを持たないため、直接的な働きかけを重視する傾向があると解釈されています。

この発見は、日本で活動する外資系企業にも示唆を与えるものです。外資系企業にとっては、日本の業界団体に加盟していても、意思決定の中枢には入りにくく、日本政府との直接的な関係も構築しにくい構造があります。

こうした構造的なハンディキャップを認識した上で、業界団体への関与と直接的なPA活動を意識的に組み合わせることが必要と考えられます。

業界団体側の要因:政策インサイダーの団体ほど会員企業の監視行動を誘発

研究で注目すべきは、企業の特性よりも業界団体の特性の方が強くパラレル・ロビイングの発生を説明するという結果です。

第一に、政策インサイダーである業界団体の会員企業は、パラレル・ロビイングを行いやすいことが確認されました。ロビイング支出が多い団体、ベルギー(ブリュッセル)に本部を置く団体は、EU政策の「インサイダー」として頻繁に政策当局と接触します。論文では、こうした団体の会員企業は、団体が政策当局と近い関係にあるからこそ、その活動を監視し、必要に応じて自社の立場を直接伝える動機を持つと説明されています。

エージェンシー理論の観点からは、「代理人」である業界団体と「依頼人」である企業の間に情報の非対称性が生じることで、企業による監視行動としてのパラレル・ロビイングが促されると解釈できます。

この発見は、直感に反するようで、実務的には納得感があります。影響力のある団体に加盟していれば安心できそうですが、団体が政策形成の中枢に近づくほど、会員企業には「団体が何を伝えているのか」「自社の利害は適切に反映されているのか」を確認するコストが発生します。

経団連や業界の中核団体に加盟しているだけで安心するのではなく、団体の活動内容を継続的にモニタリングし、必要に応じて自社の立場を直接伝えるチャネルを持つことの重要性を、この研究結果は示唆しています。

第二に、幅広い政策分野で活動する「ジェネラリスト型」の業界団体の会員企業も、パラレル・ロビイングを行いやすいことが確認されました。多様な業界・分野をカバーする団体は、個別企業の利害を完全に反映することが困難です。論文によれば、団体のポジションが「最大公約数」にとどまるほど、各企業は自社の詳細な立場を別途伝える必要性を感じるとされています。

守備範囲の広い業界団体に加盟している場合、団体の発信内容が自社の利害をどこまで反映しているかを常に確認し、不足があれば自社で補完する姿勢が求められます。

イシューの性質による違い:具体的な法令・規制ほどパラレル・ロビイングが発生

研究ではさらに、面会の目的によってパラレル・ロビイングの発生率が異なることも明らかになっています。一般的な関係構築目的の面会よりも具体的な法令や規制に関する面会の方がパラレル・ロビイングになりやすいとされています。

この発見は、PA資源の配分を考える上で参考になります。関係構築フェーズでは業界団体との重複を避け、具体的な政策決定が迫った局面では団体の活動と連動しつつ自社の立場も直接伝えるという使い分けは、限られたPA資源を効率的に配分する観点からも合理的と考えられます。

おわりに:業界団体と自社PA活動の戦略的バランス

本研究は、企業のPA活動が業界団体への委任と直接的なロビイングの二者択一ではなく、両者を戦略的に組み合わせるものであることを実証的に示しました。特に、業界団体が政策当局との関係を深めるほど、また団体の守備範囲が広いほど、個別企業としてのパラレル・ロビイングの動機が高まるという発見は、PA実務にとって重要な知見です。

日本においても、業界団体を通じた集団的なロビイングと、企業単独での政府との対話は並存しています。両者の関係を「代替」ではなく「補完」として捉え、業界団体への関与を維持しつつ、独自のチャネルも構築する戦略的なバランスが、効果的なPAの鍵になると考えられます。

参考文献

Albareda, A., Coen, D., & Saz-Carranza, A. (2025). The firm logic of parallel lobbying: explaining why corporations lobby directly in addition to their associations. Journal of European Public Policy. https://doi.org/10.1080/13501763.2025.2534653

長島 淳史
長島 淳史
OpenPolicy株式会社 代表取締役

国土交通省、公正取引委員会を経て、Airbnb、Facebook、Match Group / Eurekaにて政策渉外に従事。その後、OpenPolicy株式会社を創業。戦略から実装まで伴走する政策渉外・ルール形成コンサルティングを提供。

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